日常に、なにかモヤモヤした違和感を抱えていませんか?
仕事もそこそこ順調。人間関係だって悪くない。
でも、ふとした瞬間に「このままでいいのかな」と胸の奥がざわつくことがある。
誰かと比べて自分が小さく思えたり、
頑張ってるはずなのに、どこか空回りしている気がしたり。
そんなときに“旅に出たら何か変わるかも”と思ったことはありませんか?
でも現実は、旅に出る勇気も、きっかけもないまま、
今日も目の前のことに追われて時間が過ぎていく——。
そんな私が出会ったのが、
お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭さんのエッセイ
『表参道セレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』です。
これは、ただの旅エッセイではありません。
自意識と社会、理想と現実の間でもがく“考えすぎる大人”の心を、
そっとほどいてくれるような本なのです。
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本の概要:キューバ旅行と“心の解像度”

『表参道セレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』は、
テレビで見かける“明るくてちょっと変わった”芸人・若林正恭さんの、
30代に入ってからのひとり旅の記録です。
行き先は、キューバ。
観光ガイドには「陽気な音楽とクラシックカー」と紹介される国。
でもこの本のなかで描かれるのは、
いわゆる「インスタ映え」や「おしゃれ旅」とはほど遠い、
どこまでもリアルで不器用な心の旅です。
表参道セレブ犬と野良犬:ふたつの“自分”の存在
タイトルに出てくる「表参道セレブ犬」とは、
清潔で、整っていて、他人の目を気にして“ちゃんとしている”自分。
一方、「カバーニャ要塞の野良犬」は、
誰の目も気にせず、吠え、自由に生きている自分。
旅先のキューバで、若林さんはそのふたつの自分に出会います。
「表参道セレブ犬」のような感性は、日本という国の中で
“ちゃんと”生きるには必要かもしれない。
でも、果たしてそれは本当の自分なのか?
キューバの雑多な街のにおい、
言葉が通じないもどかしさ、
治安の不安と、それでも感じるあたたかさ——
そうしたすべての体験が、彼の中にある“もうひとりの自分=野良犬”を目覚めさせていきます。
キューバという舞台がくれた「心の解像度」
本書の大きな魅力のひとつは、派手さやドラマチックさのない旅が、
自分の心を細やかに観察する力へとつながっていく点です。
何を見て、どう感じたか。
そのとき自分の中で、どんな過去がよみがえり、どんな不安がささやき、どんな言い訳が生まれたか。
ただの「旅行記」ではなく、「自分の思考回路の記録」とも言える内容が、
読む者にとっても自分を見つめ直す旅になっていくのです。
どんな悩みに効くの?読者のモヤモヤ別処方箋

『表参道セレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』は、誰かの役に立ちそうな“答え”をくれる本ではありません。
けれど、読んでいるうちに「それ、私も感じてた!」と
胸の奥にしまっていた気持ちが言語化され、そっと肩の力が抜けていくような感覚になります。
この章では、読者の「あるあるな悩み」別に、 この本がくれる気づきをまとめました。
他人と比べてばかりの自分が嫌になる
「あの人はあんなに自由に生きているのに、自分は……」
SNSを開けば誰かの成功、旅、笑顔
それを横目に、自分の小ささが嫌になることって、ありませんか?
この本では、若林さんが「見栄」で行動してしまい、
それを自覚して恥ずかしくなったり、”旅人っぽさ”を演じてしまう自分に気づいています。
でも、そんな自分を責めずに素直に描いているんです。
だからこそ、読んでいる側も安心できる。
誰かと比べてしまう自分を、まずは笑ってみる
そんな距離感を教えてもらえます。
自己肯定感が低く、自分に価値を感じられない
「自分って何なんだろう」
「やりたいことも分からないし、得意なこともない」
そう思う人にとって、旅は“逃げ”に見えることもあります。
でもこの本は、
「今ここにいる自分でしか旅なんてできない」と教えてくれます。
旅行の計画がうまくいかない、体調が崩れる、言葉が通じない——
思い通りにいかないなかでこそ、自分の本音が見えてくる。
「何者かになる旅」ではなく、「何者でもない自分を見つめる旅」
そう思えたとき、少しずつ自分を肯定できるようになれます。
一人旅をしたいけど、意味があるのか分からない
「ひとり旅で人生変わるって、ホント?」
そんな疑問に対して、この本はこう応えるでしょう。
「変わらないかもしれない。でも、変わらなくてもいいと気づくことが、旅の収穫になる。」
若林さんは、旅先で“何か特別なこと”をしようとはしません。
観光地にも行くけれど、感動はしない。
でもその代わりに、現地での”日常”に触れ、“自分の反応”に敏感になっていくのです。
ひとりで過ごす時間、歩く速さ、言葉の壁。
それらがすべて、自分自身の“輪郭”をあぶり出してくれるんですね。
「旅の目的は、何かを得ることじゃなく、自分とちゃんと話す時間をつくること」
——そんなふうに、この本は教えてくれます。
印象に残ったことば・エピソード紹介

若林正恭さんの書く文章には、
どこかひねくれていて、だけど真っすぐな魅力があります。
笑えるけど、刺さる。
軽いけど、重たい。
そんな言葉たちが、ページのあちこちにちりばめられています。
ここでは、私自身がとくに印象に残った言葉やエピソードをいくつか紹介します。
◆「自分を楽しめない人間は、どこに行っても楽しめない」
旅先で、予定通りに行かないことが重なったときの一言。
天候、治安、体調、思ってたのと違う街並み。
そんな外的要因にイライラしていた自分に向かって、
ふとこの言葉が出てくる場面があります。
「旅を楽しむためには、まず自分を楽しませること」
それって、旅だけじゃなくて、日常にもそのまま当てはまるんですよね。
◆「キューバの街を歩いていたら、“他人の人生を生きていた”ことに気づいた」
このエピソードは、何の変哲もない散歩中に訪れます。
観光地でもなければ、ドラマティックな展開もない。
でも、ふとした路地裏で、自分の足音だけが響く中——
「今までの人生、自分の言葉で決めてきたことってどれくらいあっただろう」
と、静かに自問する場面です。
これは、読者にもグサッとくる問いだと思います。
自分の価値観だと思っていたものが、
実は“誰かの正解”をなぞっていただけだった——
そんな痛みが、旅の中で浮かび上がる瞬間です。
◆「“ダサさ”を隠そうとするほど、人はどんどん不自然になる」
旅先でカッコつけようとして、結果、滑稽なことになってしまうエピソードがたくさん出てきます。
高級ホテルに泊まってみたけれど、居心地が悪くて全然休めない。
キューバ音楽を聴いてみるも、ノれない自分に焦る。
そんな場面で若林さんは、「ダサいままでいいじゃん」と
開き直るわけでもなく、卑下するわけでもなく、ただその“ダサさ”を受け止めているんです。
「ダサさは、未熟さではなく、素直さの証拠かもしれない」
そんなふうに思わせてくれる優しさがあります。
この本に出てくる言葉は、
“まとめ名言”のように映えるものではないかもしれません。
でも、自分の中に長く残る、地味だけど効く言葉たちです。
この本をおすすめしたい人
『表参道セレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』は、
読んだ直後に「この本すごい!人生変わった!」と思うような、
派手なインパクトがある本ではありません。
けれど、読み終えたあと、いつもの駅までの道、カフェの静かな時間、
ふとした日常のなかでじわじわと効いてくる——
そんな“あとから効いてくるビタミン剤”のような本です。
何者かにならなきゃ、と焦っている人
まわりは夢を叶えたり、肩書きを増やしたり、
まるで“順調な人生”を送っているように見える。
一方、自分は何も変われていない気がして焦る。
そんなときにこの本を読むと、
「焦ることそのものも、自分の一部でいいんだ」と
そっと認めてもらえる気がします。
人と比べすぎてしまう人
SNSを見るたびに、誰かの幸せや成功が、自分の劣等感を刺激してくる。
この本には、「人と比べてしまう」自意識がたくさん描かれています。
だけど、それを否定も美化もせず、「そんな自分、いるよね」と笑える距離感で書かれているんです。
比べてしまうこと自体を責めないでいい。それだけで、心が軽くなります。
“考えすぎる癖”に疲れてしまった人
頭の中でぐるぐる考えてばかりで、何を決めるにも時間がかかる。
素直に感動することも減ってきた。
そんな「頭のなかに住みすぎてしまった大人」にこそ、この本は効きます。
若林さんも、思考の迷路にしょっちゅう迷い込んでいます。
でも、迷っている最中の「思考そのもの」も大切に描いているのがこの本の魅力です。
一人旅に興味はあるけれど、不安が勝ってしまう人
「ひとりで行くなんて寂しそう」「不安だらけじゃない?」
そんなふうに感じて、一歩を踏み出せない人へ。
この本に出てくるのは、旅を通して何かを“達成”した人ではなく、
「不安の中に身を置くこと」をちゃんと味わった人の記録です。
だからこそ、勇気をくれる、「それでも旅に出てみたくなる」本です。
おわりに:「旅に出る」という選択肢がなくても
旅に出るのは、時間にもお金にも余裕がある人だけの特権——
そう思って、あきらめてしまっている人も多いかもしれません。
しかし、本当の旅とは、「どこか遠くに行くこと」ではなく、 自分の見方を変えることから始まるということです。
若林正恭さんがキューバで体験したことは、突飛な出来事でも、特別な出会いでもありません。
でもそのひとつひとつを、自分の内側と丁寧に向き合いながら描いているからこそ、
読んでいるこちらの心にも、静かに波紋を広げていきます。
外の世界に出かけられなくても、本を通して「内なる旅」はできる。
旅先での出会いや気づきを通して、少しだけ“自分を違う角度から見ること”ができたなら、それはもう立派な「旅」なのかもしれません。
忙しい日々のなかで、モヤモヤを抱えたまま立ち止まってしまったあなたに——
この一冊が、静かな“旅の入り口”になってくれることを願っています。
編集後記:この本と一緒に読んでみてほしい関連書籍
『ひとり上手』/中島義道
「ひとりでいること」の意味を考えたい人におすすめ
『本音で生きる』/堀江貴文
他人の目を気にせず生きたいと願う人に
『旅をする木』/星野道夫
旅そのものに深い意味を求めたくなる人に
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